2007年01月27日

世にもおもしろい狂言

Posted by nene2001 at 00:37 / Tag(Edit): kyogen book / 0 Comments: Post / View / 0 TrackBack このエントリーを含むはてなブックマーク
世にもおもしろい狂言
世にもおもしろい狂言
posted with amazlet on 07.01.26
茂山 千三郎
集英社
売り上げランキング: 55289
おすすめ度の平均: 5.0
5 狂言って、面白い

大蔵流狂言茂山家の現当主の弟である千三郎さんが書き下ろされた、狂言を知らない人のための狂言入門書です。

狂言ってどんなもの?例えば台詞を現代語訳してみると、どんなことを言っているの?狂言の舞台や装束はどんなもので、どんな理由でそうなっているの?狂言の登場人物は、ストーリーはどうなっているの?能とはどう違って、またどういう関係にあるの?
といった、狂言を観る上で知っていれば100倍楽しい、というか読めば狂言を観に行きたくなる情報を、新書サイズでコンパクトかつ十分にまとめた面白い本です。
まだ狂言を観た事がない人も、よく観ている人も、これを読んでより狂言への理解を深めていただければと思います。

私、もう6年近く前になりますか、最初の会社でVRMLを使ったシステムを作っていた際、狂言の型を3Dアバターで再現して、いろんな狂言をアーカイブしてライブラリにしたりしたら面白いかなあとか思ってたんですけども。
この本の後書きで、千三郎さんが、

狂言の醍醐味は、能楽堂で、ホールで、神社の境内で、「この役者はどう演じるんやろ?今日はどんな太郎冠者やろ?」「この役者はこんな風に笑うんや。ああ、今日はちょっとこわい感じやったな」と、観てくださる人それぞれが、日々生の舞台を楽しんでくださることにあると思います。これこそ、生きた狂言の生命線だと思うのです。これからも自然に微妙に変わることを、恐れずにいたい。ただし、型を無視した「カタナシ」になったらあかん、「型破り」な狂言をつとめていきたいと思っています。

と書かれていたのを見て、自分の浅はかさを少し恥じたような感じです。

でも、もうちょっと突っ込んで欲しかったところや、狂言そのものの知識と違うような部分でおかしいのでは?と思うようなところも多少。
例えば、一般的な役柄として、太郎冠者はお馬鹿なキャラ設定で、かつ主役になることが多いのはこの本の通りで、時々太郎冠者が聡明な役回りで、お馬鹿な主人である大名をサポートするような話もあるのもその通りなのですが、でも後者のような狂言の場合は、主人公(シテ、といいます)は太郎冠者ではなく、お馬鹿な大名の方なんですよね。
狂言の主人公は、ほぼ一貫してお馬鹿な方(要するに親しみやすい方)、というあたりは記しておいて欲しかったなと思います。
後、狂言の登場人物にはほとんど名前がないのはその通りなのですが、それでもどうしても名前を呼ばなくてはならない話の時は、「演じている役者」の名前を呼ぶんですよね...そのあたりの記述も欲しかったな。

また、室町時代が男尊女卑の時代で、女性が虐げられていた(から、女性に対する応援の意識から、喜劇の中では強い女性を登場させたのではないか)というのは恐らく間違いで、日本史上で庶民レベルで男尊女卑が定着したのは、儒教哲学が民間にまで適用され始めた江戸後期から明治期になってからのはずで、それ以前は庶民レベルでは男女同権、あるいは個々の夫婦内での力関係では女房の方が怖いというのはよくある光景だったはず。
また、犬は狂言では「ビョウビョウ」と鳴くのですが、現実離れしているというのは、これも昔は犬がもっと野生に近かった頃は、狼の遠吠え的な声が一般的な犬の声と認識されていたため、昔は狂言に限らず犬の泣き声は「びよびよ」という声があてられていたはずで、「わんわん」が定着するのは江戸後期以降のはず(参考文献:犬は「びよ」と鳴いていた―日本語は擬音語・擬態語が面白い)。

初心者を越えてもう少し狂言の世界に突っ込んでみたい方には...。
『蝸牛』という狂言の太郎冠者は、カタツムリを取って来い、竹薮にいる物だと言われて、竹薮で寝ていた山伏をカタツムリだと勘違いして連れて行こうとするんですが、その話の変さ加減を、この本では初心者対象にあまり演出とかにまで突っ込んでも仕方ないので、「普通そんな勘違いはしないと思うのですが...」で終わらせています。
が、それを超えて狂言の演出等にまで興味を持たれた方は、私の師匠である木村正雄師が、昭和46年より京大学園祭の能狂言舞台のパンフレットに寄稿してきたエッセイを、今こちらのページで随時公開していっております。
このエッセイ集では、そういった深いレベルでの演出が、狂言の創生から現在までの間にどのような理由でどう変わっていったか、といったあたりにも突っ込んでいますので、本を読んで狂言に興味を持たれた方は、ぜひ木村師のエッセイ集もご覧いただければ幸いです。

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